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春の夢のクリューナ

PBW 《シルバーレイン》のPC・クリュについて色々書いてます。 全体の書き方は背後とPC混じりです。                   分からない人は回れ右しようね。お姉さん(お兄さん?)との約束だよ(by背後

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偽シナ【エンド・オブ・サートゥン・ナイトメア】OP・リプレイ1

続きから、どうぞ!



●現実の悪夢
 少年は物心つかない頃に両親を亡くした。
少年は養父母の家に居場所がなくて孤独だった。
 少年は高校卒業後に家を出て青年になった。
 青年は母校である高校の文化祭で少女と出会った。
青年はやがて少女が卒業して女性になると結ばれた。
 青年は妻となった女性が子供を授かって父親となった。
父親は妻と娘の三人家族で何時の間にか孤独ではなくなっていた。
父親は娘が三歳となった頃に妻を亡くした。
 父親は悲しみながらも泣きじゃくる娘を守ることを決意した。
……幸せは続かないものなのだろうか。
 これらの悲しい出来事は悪夢ではなく、全て現在に至るまでの真実だ。
 そして、彼には新たな悪夢が忍び寄っていることを……知る由もない。

 暗い、暗い、不思議な世界の中心に少年がぽつりと立ち、ぐずるように泣いていた。
「やっぱり、あれはあの頃の私だ……」
 浅野春が呟く。この光景を見るのは二回目だった。これからまた過去の辛い記憶を見せられることになるのだから悪夢としか思えない。背中に気配を感じた春が振り返った。
「春さん……」
「リュナ!」
 春は突如現れた現実では亡き妻に手を伸した。今度こそ何者から救おうとするように必死である。だが馬の姿をした怪物も同時に出現して、夢のリュナが再び跳ね飛ばされた。
 春の双眸に激しく頭部を打ち付けて動かなくなったリュナが虚しく映る。夢の中であっても何とも言えない絶望感が込み上げてきた。それでも駆け寄ってリュナを抱き上げる。
 身体はもう冷たく、現実でならない夢だからこそのリアルな感覚に一層心を抉られた。
「パパ……」
 今再び唐突に声を掛けられて、その方向に目をやった春は娘の名を口にした。
「夢衣……」
「どうして、ママを助けてくれなかったの? どうして、あたしにはママがいないの? パパが幸せになれるなら、再婚だって反対しないのに……」
 夢の娘が悲しげな表情で睨むように自分を見てくる。
「それは……」
 言葉が続かない。現実の娘が『再婚は反対しない』と本当に言っていたからだろうか。娘の言葉が、とても、とても、重く圧し掛かってきた。
「あたし、寂しいよ……」
 春は我に返った。一度目の夢と同じなら、これから何があるか分かっているからだ。リュナの遺体を乱雑に下ろさないようにしつつも娘の下に駆けようとする。
「夢衣、こっちに来るんだ!」
 しかし、春の気持ちを裏切るように闇から出でた馬の怪物が娘を即時に突き飛ばした。
「夢衣!」
 叫んだ春が倒れた娘にフラフラと覚束ない足取りで歩み寄る。触れた娘の身体はやはり冷たかった。
「どうして……」
 不意に夢の娘がさっきまで言っていた単語が漏れる。そして無力感が止まぬうちに、暗闇が春の意識を侵食し始めた。
「また、か……」
 あと何回、この悪夢を体験するか。それは春の精神が崩壊するまでに違いない。だが暗黒に飲まれた春の意識では、すでに考える時間がなかった。
 次に目覚めた時は、あの悪夢が始めから繰り返される。
『サァ……早ク来イ』
 年月を経てきたであろうナイトメアの狂気に満ちた声だけが、黒い世界で静かに響いた。

「これは、今回見た運命予報の中の悪夢の内容です」
運命予報士、三枝・まつりは失われた言葉の代わりに素早くキーを叩いてディスプレイに文字を呼び出して行く。その手つきはまだまだ押さえるには未熟な怒りに満ちていた。
「今回の被害者は、浅野・春さん。……そこにおられる浅野・クリューナ夢衣さんのお父さんです」
うつむいた表情は窺い知れず、静かに佇む少女の方をまつりは見やる。
「どうか、皆さん。春さんの夢の中に赴いて、このナイトメアを倒して来て頂けないでしょうか。あまりにも……酷すぎます、こんなやり方」
ある程度感情と理性を分けられなくては運命予報士はやっていられない。しかし、まだ幼く経験も浅いこの予報士は、被害者への同情とナイトメアへの憤怒をはっきりと面に表していた。
「どうやら、今回のナイトメアが彼女のナイトメアである《ほーさん》のことをご存知らしいんです。その真相の確認も気にはかかります。ですが、危険に身をさらすのは皆さんですから、どうするかはお任せします。もしお願いできるのなら……どうかよろしくお願いします」
小さな頭が、深々と下げられた。
 浅野・クリューナ夢衣(絆と歩むシロガネの夢使い・b44387)、クリュがようやく伏せていた顔を上げた。
「もしかしたら、ママの仇かもしれないの。だから、皆お願い……!」
 クリュの表情は手に取るように怒りと動揺の色が滲んでいるのが分かる様子だった。


●潜入ナイトメア
 現実世界は闇夜に包まれ、空が黒色に支配されていた。
 もちろん、町中の道路は街灯に照らされている。だが能力者達が辿っていく道に影が差している感じがするのは、気のせいではないだろう。
 一人が現時刻を確認した。周辺の住宅から漏れる明かりの少なさが示す通り、明日が早い者ならすでに就寝中な時間帯である。
 そんな真夜中に、未成年八人が一緒にいた。
 しかし、深夜パトロール中である警官などの例外とは、まだ遭遇していない。その兆しも無かった。本当に住民が寝静まっているだけなのか、やはり運命の糸に導かれているからなのか。
 そう、八人は仲間のある能力者の家を目指していた。
 能力者達は運命予報を耳にしたのだ。そして被害者というのが、浅野・クリューナ夢衣(絆と歩むシロガネの夢使い・b44387)の父親である浅野春その人だった。
 悪夢に囚われようとしている春を救うには、ナイトメアを『撃退』する必要がある。
 いや、今回に関しては『討伐』と言うべきかもしれない。何故ならクリューナ夢衣の母親であるリュナの仇――という可能性があるからだ。
 運命予報を通じて干渉した際の結末は、能力者達にも分からない。次の機会があるとは限らなく、事を急ぐわけにはいかなかった。この時間帯に向かうのも確実に夢へ入るためである。
「初めてやるナイトメア戦がこういう形ってのもなー。なんかなー……」
 沢渡・沙希(黎明へ至る蒼き闇・b03474)が口調こそ普段と変わらないものの、重たげに口を開いた。
「夢に入る……心地良いものじゃないわね」
 平賀・双葉(禊がぬ織り手・b32970)も呟いた。それでも運命の糸が紡がれたからには、銀誓の生徒の使命を果たすだけである。
 形代・鈴音(薔薇獄乙女・b03690)は声に出さなかった。だが下ろした前髪で隠している目元の奥に、怒りを覚えているようだ。沈黙がそれを物語っている。
 ミシェル・ローデリック(なんとなく魔法使い・b03554)は近所迷惑にならないように声を抑え、今の想いを露にした。
「クリュさんのお父さんはすごく苦しんで来られたんですね……。その心に付け入ってクリュさんとお父さんを苦しめるナイトメア、許せないです。ナイトメアたちを倒してクリュさんやお父さんを助けたいです!」
「酷い話もあったものだね。でも、だからこそさっさとその事に蹴りをつけないとね」
 ミシェルに続いて、天道・紅蓮(ダブルクロスガンナー・b56443)もそう言った。
「よりにもよって姉様と春さんの心を土足で踏み荒らしました」
 稲田・琴音(蟲人・b47252)の目に浮かんでくる。心を痛めながら家で自分達を待つクリューナ夢衣の顔と、今頃は悪夢を見せられているかもしれない春の顔だ。
(ちょっと酷くなりますけど、覚悟はしなさい)
 琴音は決意を胸に、歩くスピードが自然と速くなる。
「クリュのお父さん……春さんを助ける。そしてクリュにとっての悪夢も終わらせるぞ」
 五百蔵・清己(前人未到の廃ジャンル・b36142)は他の七人を一瞥する。そして仲間達と頷き合った。
 (夢衣は、私にとってとても大切な友達。親友だと思ってる。だから今回は、能力者としてではなく、夢衣の友達として。彼女の心と、彼女のお父さんを守りたいと思う)
 忍里・佐織(高校生水練忍者・b45029)は胸の内を明かさなかった。言葉にしたらどうにかなるというわけではなく、ただ大切な想いだったから。佐織の繋がりはクラスメイトとして、普通の学生としても深い。
 二人を守りたいという気持ちは、皆同じだ。今更言うまでもなかった。
 そうして、八人は目的地に到着する。悪夢が戦地。乗り込む先は変哲もない住宅に見えてもおかしくない。
 しかし、言い様がない何かが家全体に不穏な空気を漂わせていた。
「準備はいいか?」
 突入の前に、清己が訊く。
 悪夢世界で死傷すれば、現実世界の肉体もそうなってしまう。結局は危険と隣り合わせであることに変わりない。それならば、少なからず恐怖しているものがいるだろうか。
 ……いるわけがなかった。ここまで来て、怖気づく者など誰一人としていない。
 能力者達は悪夢の入り口に、足を踏み入れていった。


 浅野家の居間のカーテンからは電灯の光が零れていた。クリューナ夢衣の話では、玄関の鍵を掛けず、居間にいるとのことだが。家宅侵入するような真似も嫌だろう。
 施錠の有無は、クリューナ夢衣の妹みたいな存在の琴音が調べる。
「……鍵は掛かっていません」
 ゆっくりと開けられたドアの音を聞き入れ、クリューナ夢衣が居間から飛び出るようにやってきた。その表情は硬い。
 運命予報の説明を聞いた時にかなり動揺していたことを、清己は覚えていた。
「大丈夫、心配するな」
 駆け付けた仲間達の姿もあり、不安げに曇らせていたクリューナ夢衣の表情が少し和らぐ。
 クリューナ夢衣は二階に春の部屋があると教え、能力者達を上がらせた。先に行かせたのは、これから無人状態になる家を戸締りするためだ。閉ざされる浅野家。それは逃げ場のない悪夢の中を暗示しているのか。
 夢に潜入する時が刻一刻と迫っている。
 能力者達は春の部屋に待機していた。数分後にクリューナ夢衣と合流し、九人が集う。
 ついに、役者が揃った。クリューナ夢衣は能力者達に訊く。
「……それじゃあ、いい?」
 能力者達の並びは春のベッドを囲む形になっている。突入直前にした頷きと同じように全員が首肯した。
 整頓されている春の部屋は綺麗である。だがベッドが二つあり、少し狭い。その一方に、春が眠っていた。もう片方は……空いている。今は亡きリュナの物だ。枕もシーツもなく、マッドがただぽつりとあるだけのベッドはとても物悲しく感じられた。
 クリューナ夢衣が両手で春の手をそっと握り、目を閉じて念じる。その瞬間、鮮やかな虹色とは言い難い、禍々しさを帯びた『不思議な色の雲』が春の周りに出現した。
 各自、雲に触れて意識を夢の中に送っていく。最後に、クリューナ夢衣が後を追った。
 能力者達が春のベッドに寄り掛かる中……。クリューナ夢衣だけは、リュナのベッドの傍らにその背中を預けていた。


 暗い。光が無いので、真っ暗だ。
 互いの姿はしっかりと仲間同士で視認できた。現実世界なら科学的にありえない。夢の中に入れたという証拠だろう。
 足場を構築しているものは何か。地面を何度か踏み付けてみると、土や草のような感触がした。平地になっているのなら躓いたりはしないはずだ。
 何処までも暗闇が続くとなれば、春の捜索には骨が折れそうである。
 しかし、そんなことを言っていれば、埒が明かない。
「まずは、パパを探そう」
「そうしましょう」
 クリューナ夢衣の提案に、鈴音が賛同した。
 能力者達はまだ【起動】していない。春が武装をどう思うかも分からず、【起動】しないという結論に至ったのだ。異論は無かった。
 一先ず八方に目を凝らし、捜索を開始する。視界には、残念ながら闇しか映らない。だが丁度並んで三方向を視ていた三人の耳に、微かな音が聞こえてきた。
「向こうに誰かいるようです」
「そのようね」
「行ってみるしかないね」
 鋭敏感覚を持つミシェル、双葉、紅蓮、この三人の意見が一致した。手掛かりにしてみる価値は十分にあるだろう。
 能力者達の足取りは、闇に紛れている可能性がある障害物に引っかからないよう慎重だった。徐々に、三人以外にも足音が耳に付いてくる。
 やがて色が浮かび上がるようにして人影が現れた。
「パパ!?」
 クリューナ夢衣が呼びかけると、次第に何者か明らかになった。
「……夢衣かい?」
 現実世界でも着用中の地味な緑のパジャマそのままの姿で、春がやってくる。そして間が抜けた返事をしてきた。足音の正体は外履き用のスリッパだったようだ。
 悪夢の衛兵には、春の偽者がいるらしい。だが大人の春とは聞かされていなかった。恐らく本人のはずである。
「良かった……」
 能力者達はクリューナ夢衣と共に、春を保護できたことに安堵した。
 しかし、発見できても、真に胸を撫で下ろすのは全てが終わってからだ。
「皆一緒でどうかしたのかい? まあ、ここは夢か何かのようだからね。気にしない方がいいのかな」
 春の様子は至って普通だった。むしろ暢気過ぎるくらいだ。もしやまだ悪夢に苦しめられていなかったのだろうか。錯乱されるよりはいい。だが楽観視はできない。
 その時――。
『!?』
 不意に、周囲の風景が一変した。
 目の前に広がったのは、果て無き草原と立ち並ぶ住宅街……。異なる世界に真っ直ぐな境界線を引き、両方の風景が分断されている。まるで鳥籠に被せた黒いカーテンを、瞬時に取り払ったかのようであった。
 能力者達は不可思議な構造をした悪夢世界の草原側に佇んでいる。進行経路から推測するに、住宅街を塀伝いに春が歩いてきたようだ。
 悪夢世界の広さがナイトメアの強さを誇示するならば、かなりの強大な力を持っていることになる。
 能力者達は警戒心を強め、神経を尖らせた。
 しかし、悪夢の衛兵が仕掛けてくる様子はない。何やらナイトメアの掌で躍らされているのではないかと思えてくる。
「……ここは、あたしと【ほーさん】が良く知ってるわ」
 クリューナ夢衣は十数秒の静寂を経て言った。


 【ほーさん】が夢で生み出す情景を知っている。
 つまり、【ほーさん】と接点のあるナイトメアだ。そして心当たりは一つしかない。即ちリュナの仇であるという事実に他ならなかった。
「……確定ね」
 双葉の呟きと共に、能力者達はイグニッションカードを構える。そして【起動】した。
 クリューナ夢衣だけは、真実を前に少し呆然となったようだ。複雑な心境に陥るのも無理はないだろう。
 背中を預けながら心配する能力者達。琴音が振り向かずに声をかけた。
「姉様」
「夢衣、大丈夫かい?」
 【起動】を見ても尚我を忘れることなく、春は娘の名を呼んだ。能力者達が気を張り詰めていることもちゃんと察しているように声調が鋭くなっている。
 保護が完了した今、後は悪夢の衛兵を退け、ナイトメアと決着をつければ終わりだ。
 春と仲間達に、クリューナ夢衣は静かに答えた。
「うん、大丈夫……。それより、パパお願い。これから起こる事には驚くかもしれないけど、あたしに何も言わずについてきてほしいの」
「分かった」
 春は即答した。何の疑いもない。そもそもこの状況でまともに対応できるものだろうか。娘を心底信頼しているからこそ、こうして冷静でいられるのだろう。
 父と娘の底知れない絆を目の当たりしたことで、能力者の士気が向上する。
 ――ふと生暖かい嫌な風が能力者達を凪いだ。それと同時に、クリューナ夢衣のイグニッションカードが自動的に【起動】する。
 クリューナ夢衣の【起動】には、春も少し驚いた。だがもう非常事態ということを理解しているらしく、頭を切り替えるように表情を戻す。
 襲撃は、ない。どうやら威嚇目当てだったらしい。また静まり返る。
「嘗められているようだな」
 ナイトメアの嘲弄するような行為に、紅蓮が吐き捨てるように言う。短い一言だが、紅蓮に闘志を燃やさせるには事足りた。
「とにかく、あたしとパパは皆から――」
 気味が悪い風音と共に、再び風が吹いた。
『離脱スル前ニ、仲間ニ力ヲ貸サナイノカ……。ソノタメニ準備シテキタノダロウ?』
 何処からともなく、声が響いてきた。
 鈴音が使役する真ケルベロスベビーのケルが唸り始める。だがその方向は一定ではない。
「夢衣、今どのアビ使える?」
 九人の中でも一番の実力を誇る沙希が、臨戦態勢を維持しながら訊いた。
 クリューナ夢衣の回答は、ナイトメアランページ奥義四回、悪夢爆弾奥義四回、白燐奏甲改十二回、サイコフィールド十二回。
 つまり、「白燐奏甲改とサイコフィールドを使え」と言いたいようだ。
 能力者達の力の強化を望んでくる。何とも不可解な申し出。だが強化して損になるような攻撃をしてくるという忠告は、運命予報に無かった。
 ナイトメアの出方からしても、要求を呑まないという選択肢はないだろう。拒否や無視をすれば、能力者達が去るまで潜み続ける危険性もある。最終的に春が悪夢に囚われてしまうことになるのだ。
「仕方ないわね。夢衣、お願い」
 白燐奏甲による力の強化は、万が一の奇襲対策として素早い佐織から行われた。クリューナ夢衣以外に強化のアビリティを使える者は、念のためにも温存である。
 もちろん、警戒は怠らなかった。強化が済んだ者から付近を注意深く見渡している。そして最後の締めにサイコフィールドのガードアップが施された。
「皆……気をつけて!」
 ここは元になった夢の世界と一緒だ。広大な草原にたった一つの大岩が転がっている。
 クリューナ夢衣は春を連れ、【ほーさん】の定位置であるそこまで離れ――。
 二人の動き見計らっていたのか、最初から春を見逃すつもりでいたのか。迷彩のカーテンを引き剥がしたかのように住宅街側の世界に、悪夢の衛兵がその姿を晒す。 
 悪夢の衛兵の配置は、前衛と後衛に分かれていた。偽ナイトメア二体を庇うように偽春と偽クリューナ夢衣、そして偽リュナが前に出ている隊列だ。
 表情は怒りや悲しみ、微笑など三様だが、生気の感じられない眼差しを飛ばしてくる。
 偽リュナを目にした春は、一瞬驚愕したようだ。それでもクリューナ夢衣に手を引かれていたおかげで立ち止まることはなかった。
「では、始めようか」
 【ほーさん】の姿を模した偽ナイトメアが言い放つ。顔の右に紋様はあった。だが毛並みが青み掛かった黒をしている。クリューナ夢衣と共に在る現在の【ほーさん】とは違う。過去の様相になっている理由は不明だ。
 隣には、土煙で薄汚れたような灰黒色の毛並みをした初老の偽ナイトメアがいた。
 要求を突きつけてきた声の主は、この初老の偽ナイトメアに間違いないだろう。四体の中で唯一、クリューナ夢衣も含めて声を知らない。そして白燐蟲が煌く詠唱兵器を、品定めするように眺めてきたからである。
 清楚な印象の洋服を着ている偽リュナは、若かりし頃の姿を基にしたようだ。年月を重ねていないその雰囲気が、何となくクリューナ夢衣と似通っていた。
 偽クリューナ夢衣は左手に仕込み杖を持ち、本人と同じアグレッシブな服装である。そして偽春も本人と同じデザインのパジャマを、子供サイズにしたものだ。
 能力者は姿を現さない悪夢の衛兵を前に、仲間達からそれほど距離をとれていなかった。白燐奏甲が近接して使う力であり、クリューナ夢衣の側に集っていたことも要因の一つ。一ヶ所に固まっていると、一網打尽にされかねない。
 しかし、初老の偽ナイトメアが能力者の一挙手一投足に睨みを利かせていた。一触即発の空気が流れる。移動を試みた瞬間、戦いの火蓋を切るに違いない。
 双方が留まり、相手の様子を窺う。それによって、脆い均衡が保たれた。
 ミシェル達は感覚を研ぎ澄ませる。
(五体、ちゃんといます)
 双葉と紅蓮の二人も気配を探ったが、同じだった。
 視野が開けた草原に出向いた以上、物陰に隠れている悪夢の衛兵は見当たらない。先程のようなことがなければ、運命予報外の悪夢の衛兵も割り込んでこないはずだ。
 悪夢の衛兵は陣形が整っていた。何時でも戦えるのだろう。
 誰かが合図することは無かった。「散開」と以心伝心したように能力者達はそれぞれ動こうとする。そして俊敏な佐織が先陣を切ろうとしたが――。
「なっ!?」
 偽ナイトメア二体はその佐織よりも速かった。収縮された深い眠りに誘うあの力。能力者達に目掛け、悪夢爆弾を飛来させる。開戦を告げる花火が上がったような音が空気を震わせた。
 悪夢が、能力者達に、降り注ぐ!


偽シナ【エンド・オブ・サートゥン・ナイトメア】リプレイ2
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