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春の夢のクリューナ

PBW 《シルバーレイン》のPC・クリュについて色々書いてます。 全体の書き方は背後とPC混じりです。                   分からない人は回れ右しようね。お姉さん(お兄さん?)との約束だよ(by背後

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偽シナ【エンド・オブ・サートゥン・ナイトメア】リプレイ2

偽シナ【エンド・オブ・サートゥン・ナイトメア】OP・リプレイ1

続きから、どうぞ!



●偽りの者達
 偽ナイトメア二体の速さは、さすがに計算外だっただろう。強化の時間を作らせたわけは、全てこのためか。如何にも狡猾なナイトメアらしい遣り口である。加えて、息を合わせたような同時攻撃。
 能力者の眼前に悪夢爆弾が落下した。着弾点で爆ぜた暗黒の塊が、煙のように能力者を巻き込む。二発分を喰らわされた者はいない。全員に被爆させることを選んだようだ。
 幸いにも、距離のことを除けば、隊列は予め作戦時に能力者達が決めた並びに近かった。
「もう勝手な真似はさせないわよ!」
 無事に逃れた佐織がすぐさま体勢を整える。佐織以外に悪夢爆弾を完全に避けられたのは、琴音とミシェル。清己と双葉は運良くギリギリで回避した。
(沙希さん、鈴音ちゃん、けるちゃん……!)
 眠りに落ちてしまった結社の仲間達に、ミシェルは見遣ろうとする。だが眠らされたれ仲間がもう一人、紅蓮がいた。隙を与えて、自分まで行動不能になってはいられない。
「フン、愚カ者メガ……」
 初老の偽ナイトメアが鼻で笑う。
 しかし、優先して倒すべき標的が前衛なら好都合だった。後方の偽ナイトメアから悪夢爆弾が放てたということは……前方の悪夢の衛兵は確実に射程内だ。
 左手に持つ無色透明のカルサイトプレートの先端に水滴が付け、佐織は集中する。本来透明な水が淡白く光り、膨張しながら渦を巻いた水流が手裏剣の形を成した。右手に持つしのび短刀を器用に返し、逆手にする。そして白燐蟲の力が帯びた水刃手裏剣を投擲した。
 狙うは、偽リュナ。誘導によって不意打ち紛いの仕打ちをしてきた悪夢の衛兵達に、わざわざかける言葉はない。
 正面からの攻撃だったが技の切れに、偽リュナはガードを余儀なくされた。腕に悪夢の残滓みたいな黒い霧を包み、水刃手裏剣を払い落とす。片腕が犠牲に、確かな傷を負った。
 現状としては、皆一刻も早く散らばるべきだろう。だが偽ナイトメアを今封じれば……。ここからならば、それも可能だ。最大のピンチは、絶好のチャンスとも言える。
「ミシェル、パラライズファンガスは俺が先に使う。残った方を頼んだ!」
「はい!」
 仲間が早く目を覚ますことを信じ、ミシェルは力を使うための準備に取り掛かった。
 清己は初老の偽ナイトメアにパラライズファンガスの力を解き放つ。
 運動能力を奪うキノコが、初老の偽ナイトメアの頭部に形成された。紫色の鬣と同じ色の斑点を持つキノコだ。痺れのせいか、ふらつき始める。
 しかし、初老の偽ナイトメアは麻痺したまま怪しげに嗤った。
「さあ、一緒に踊りましょう……」
 偽リュナは子守唄を歌うように穏やかな声で誘ってきた。そして水刃手裏剣のダメージを掠り傷としか思っていないかのように優雅な舞を魅せる。
 しかし、殆どの能力者は踊りたいという衝動を堪えた。全く通用しなかった者もいる。白燐蟲の分だけ威力が上乗せされた水刃手裏剣が、予想以上に効いたのだろう。
 無理やり踊らされた双葉は、社交ダンスのパートナーのように踊っていた。
「……無様ね」
 頭では攻撃しようと思っていても、体が言うことを利かない。こんな所でダンスに付き合ってはいられないのに、これが呪い歌と称した力か。
 悪夢爆弾の睡魔に絡められている鈴音も、起きることは叶わなかった。
 仲間の下に駆け付けたい衝動を、クリューナ夢衣は必死に抑える。春と避難したことを無意味にはできない。
 ガードアップが解かれた中衛・後衛の仲間にサイコフィールドを使う。それが最善策だ。
「あれは……」
 春が後ろでふと呟いた。最後まで言わなかったのは、こんな状況でも気遣っているからだろう。
 クリューナ夢衣には、何となく予想がついた。
「うん……」
 あそこに存在しているリュナは偽者。現実世界には、もういない。そして二度と帰ってくることのない二人の想い人だ。
「でも、あたしはここにいるから」
「ああ、分かっているよ。あの夢衣も、ただ姿形が同じだけなんだね?」
 春はクリューナ夢衣の肩に乗せていた手に、少しだけ力を込める。だが今触れているのが本物の娘だと確信するように優しく。
 クリューナ夢衣も黙って、春の温もりを噛み締めた。
 声は届かなかったはずだが、二人の想いが心に響いたと思わせるような気魄を纏い――。
「いい気になってんじゃねえ」
 目覚めた沙希が大鎌の十六夜を構え直した。怒りのような状態になっても、激情に任せて突撃はしない。後ろには鈴音とケル、ミシェルが控えている。前衛の本分である盾としての役割を忘れていなかった。
 沙希が自分の影を腕の形にする。ダークハンドは前衛の沙希でも遠距離の相手を攻撃できる手段だ。どっちから攻めるか判別させまいと、草の根を掻き分けるように蛇行ながら偽リュナに肉迫させる。ぶれる軌道が回避の予測を不可能にした。
 斬撃と合わせるように地面擦れ擦れで、沙希は十六夜を振り上げた。ダークハンドの爪が偽リュナの腹部を切り裂き、毒を浴びせる。
 無機質な微笑を、偽リュナは崩さない。毒が平気なのかと誤認しそうである。
 仕込み杖を偽リュナの腹部に近付け、偽クリューナ夢衣は即座に対処した。魔力放出によって傷の半分が治療されていく。身体を蝕む毒の除去はできない代わりに、偽リュナの全攻撃力が底上げされた。能力が状態異常の効果だけとはいえ、守りが堅くなるのは厄介だ。
 沙希に続き、紅蓮もその眼を開いた。
「寝ている場合じゃないな。状態異常や少しの傷くらいなら、何とかするから構わずに攻撃してくれ」
 状況を一瞬で把握し、仲間達を浄化の風で包み込んだ。赤い長髪を翻し、清らかかつ熱き心が込められているように暖かな風が流れる。
 能力としての作用はないが、紅蓮のバイトはフリッカーハート。踊りはフリッカーハートの専門だと言わんばかりに、双葉を踊りから解放した。
「……次で取り返すわ」
 鈴音とケルは尚も、ナイトメアの悪夢みたいな眠りに取り憑かれていた。
 琴音は思案する。茨の領域で動きを封じる選択肢は偽ナイトメア二体か、偽リュナと偽クリューナ夢衣の二体、それか偽春一体の三択だ。
 魔法耐性がある、攻撃と状態異常と回復の担い手達に的を絞るよりも……。弱点を突ける偽春が狙い目だろう。
 琴音は右手に構えていた小剣を偽春に向けた。
「容赦しませんよ。私達が負けたりすればそれこそ一番姉様を悲しませる結果に繋がるんですから。……いい気分もしませんけどね」
 夢に創造された草原の草に、夢の主である春に力を借りるように魔法の茨を発生させる。
 偽春は一度茨に捕まった。だが締め付けが完全なものとなる前に拒絶する。駄々をこねるように暴れ、茨を振り解いた。
「一人は嫌だ!」
 偽春の悲痛な怒号と共に、草原から多数の小さな子供の手が生えてきた。能力者達の足に縋り付こうと、蠢くようにうねる。生気がない手はとても冷たい。
 双葉と沙希以外は足止めの餌食になった。痛みが伴わない縋り手は、鈴音を起こすことはなかったようだ。
 ミシェルは動かなくていい。清己が初老の偽ナイトメアを麻痺させた時に、パラライズファンガスを【ほーさん】姿の偽ナイトメアに使うと思索していた。意に介さないでいると、足を掴んでいた子供の手が諦観したように地面に消えていく。
 妨害するものが無くなり、ミシェルはパラライズファンガスの力を解き放った。
「麻痺してください!」
 ミシェルの照準は定まっていた。その上に【ほーさん】姿の偽ナイトメアも、自分には効かないと慢心していたのかもしれない。初老の偽ナイトメアと同様に運動能力を奪うキノコが頭部に形成された。鬣と同じ色の斑点があるキノコだ。
 強力なナイトメアランページと同等の能力の使い手を無力化できたことは大きい。これで偽ナイトメア二体の超マヒが継続すれば、能力者も戦局を有利に展開できるはずである。
 先程、偽春は慟哭した。あれは春本人に秘められていた心の傷が表面化したものなのか。子供時代に植え付けられたトラウマとも言える孤独。それが春の際限無き娘に対する愛情の源なのかもしれない。
 妻を失い、娘もいなくなれば、また家族がいない独りぼっちの恐怖に飲み込まれる……。ナイトメアに付け入られる切欠となった弱さだ。
 悪夢そのものは、春が乗り越えなければならない。いつかまた悪夢に囚われないためにも。
 琴音が悪夢の衛兵を睨め付ける。
「春さん、あなたが今背負っているのは何か思い出して下さい! 今を見失ってしまったら、娘さんの幸せさえその指からこぼれ落ちてしまうんですよ!」
 春の心と夢の世界に、訴えるような言葉だった。
「…………」
「パパ……」
 超常の力に太刀打ちができなくとも、悪夢に対して心を強く持つことはできる。そしてナイトメアの悪夢を打ち崩すのは能力者の役目。
 能力者達はナイトメアのまやかしから春を解放するために来ているのだ。
 悪夢世界における攻防は、次の局面を迎えようとしていた。


 初老の偽ナイトメアは超マヒの効果が身体の芯まで及んでいるらしい。普通に足踏みすることも困難かのように動きが鈍っていた。
 絡み付く手の力が一瞬緩んだ時を見計らい、足止めから抜け出た佐織が行動に出る。先程は先手を取られ、咄嗟の攻撃に連携も崩された。
 しかし、今度は能力者達が団結の力を思い知らせる番だ。
(できるか分からないけど……)
 戦況に余裕が生まれ、佐織は今の位置を後衛だと判断した。そして偽リュナと距離を詰める。ここなら悪夢の衛兵も無視できないはずだ。
 もちろん、それだけでは終らない。
 移動は爆水掌を繰り出すためだ。自身の体内の水分を練り上げていた。懐に潜り込んだ佐織の手が偽リュナの胸に触れ、水のエネルギーが直接体内に流し込まれる。
 畳み掛けるチャンスだと、双葉は思った。
 しかし、偽クリューナ夢衣が仕込み杖の刃を抜き去ろうとしていた。追い打ちしようという者を牽制するために、攻撃直後の相手を斬ると警告しているのだろう。
「それなら……」
 双葉は偽クリューナ夢衣と目線を合わせる。
 その間にも、偽リュナの体内に浸入した水のエネルギーは逆流するように氾濫していた。そして力が弾け、住宅街側の塀まで吹き飛ばす。成功する保証は一切なかった。だがそこからでは、もう後衛陣には攻撃が及ばない。
 【ほーさん】姿の偽ナイトメアも超マヒの回復できなかった。良い流れである。
「よし、今の内だ!」
 紅蓮の声と共に、足止めから脱した紅蓮と清己と琴音が動く。
 偽リュナが強制的に後衛まで送られ、安全区域が拡大したところだ。後衛陣が一足遅く、偽ナイトメアの攻撃を完全に遮断できる場所まで陣形を広げた。
 ヤドリギの祝福の効果を上昇させために、琴音が自身に白燐奏甲の加護を与える。琴音の祖母の魂が力を貸していると、白燐蟲が喋りかけるように瞬いた。心を弄ぶようなナイトメアに負けられない。
(これからが、覚悟する時です)
 毒は抜けなかったらしく、偽リュナが眩暈を抑えるように頭を抱えた。だが数秒もしない内に、落ち着きを取り戻して顔を上げる。
 偽リュナは能力者達の希望の芽を摘み取ろうとするように佐織を見つめてきた。射抜きの視線だ。技に長けた佐織の力を暴走させられてしまっては、せっかく運気が巡ってきたこの優勢が危ぶまれてしまう。
「…………夢……衣」
 佐織の瞳から光が消え、超魅了にされた……かと思われた。だが理性を奪われまいと、我に返ろうとするように首を振り、佐織は誘惑の視線を撥ね退ける。
 双葉は左腕に儚き美しさを持つ細き赤手、緋刃麗手を装備していた。その爪で偽クリューナ夢衣を指し示した。
「趣味が悪いわ」
 顔を歪めたが、それも一瞬のこと。赤手に元から宿る魔炎が暴走するように緋刃麗手を紅く染め上げた。実際は双葉の妖気を炎に変換し、具現化されたものである。
 業火のように変貌した魔炎は、双葉の自らの髪をも焦がす勢いだ。そして言い聞かせるように呟いた。
「まあ偽者や夢なんかに掛ける言葉はないわね」
 双葉が緋刃麗手を翳す。紅蓮撃の一撃を打ちに、偽クリューナ夢衣に……迫った。
 しかし、偽クリューナ夢衣も易々とやられたりはしない。最大限に鍛造されたような仕込み杖の刃を盾に、直撃を避けた。爪と刃の衝撃で散った火花が魔炎に飲まれ、鍔迫り合いをするように膠着する。魔炎の熱が偽クリューナ夢衣の体力を消耗させていく。
 魔炎が鎮静すると同時に組み合うのを止め、双葉は二、三歩ほど後退した。体温の熱まで奪うかのように魔炎が引き、力の奔流が乱れる。紅蓮撃の反動による封術状態だ。
 偽クリューナ夢衣の肌を焼いた魔炎は、至る箇所に火傷を負わせている。だが魔炎を着火させるまではいかなかった。
 鈴音の超眠りは、もはや呪縛と化しているのだろうか。子供の手による束縛はなくなっても未だに意識が戻ってこない。
 クリューナ夢衣が支援する。だが効果範囲から出た中衛と前衛の二人には、今度もサイコフィールドをかけられなかった。
 もっとも、沙希にとっては関係の無い。防具という強い味方がある。そして長年の鍛錬で培ってきた己の自分自身に勝るものはないだろう。後ろにいる鈴音とケル、ミシェルを、全身全霊を賭けて護るだけである。
 遠退いた偽リュナに止めは刺せない。だが他の二体には毒を植えつけることができる。
 手始めに、手傷を負っている偽クリューナ夢衣だ。学園での修行を常日頃から共にしている仲間の偽者……。
 しかし、遣り辛さを越え、双葉は攻撃した。
 沙希も躓いてはいられない。紅蓮撃ガード後に生まれた偽クリューナ夢衣の寸隙を、ダークハンドの黒爪が突く。だが仕込み杖が盾になり、爪先に付着している毒の浸透は阻止された。威力までは殺せず、刃の側面が胸部を強打する。
「沙希さん、僕は一旦下がります」
 悪夢爆弾の対応も兼ね、ミシェルは場所を移った。そして魔弾の射手を発動させる。体内を逆流させた魔弾のエネルギーを収束し、自分の前方の空中に魔方陣を生成。
 次の攻撃時には、この魔方陣に魔力を増幅された魔弾が悪夢の衛兵を撃つ。
 偽クリューナ夢衣が偽リュナの盾になるように移動し、自身に仕込み杖の魔力放出を全開させた。魔力の光を輝かせると共に火傷や刺傷が癒え、傷らしい傷がなくなった。完治させたと断言しても過言ではないだろう。
 眠り姫みたいになっている鈴音に寄り添い、ケルもまた眠り続けている。
 偽リュナの体力は限界に近い。水刃手裏剣による射撃を恐れ、偽春は佐織を危険因子と見做したようだ。
 歪の眼で弾き飛ばそうという魂胆らしく、仮初の涙を流しながら一点を凝視する。佐織の立ち位置の空間が揺らぎ始めた。涙で揺れている偽春の目に映る光景と呼応しているかのようだ。
 しかし、佐織は空間の異常を察知し、歪む空間の中心から難なく外側に出た。
「ソロソロ私モ動クベキカ……」
 初老の偽ナイトメアの超マヒが解けた。頭のキノコが砂のように崩れ、その巨躯をもって地面に落ちたキノコの残骸を踏み砕く。
 この悪夢の衛兵は十中八九、春を悪夢に引き込んだナイトメアの分身みたいなものだろう。
 悪夢の主が重い腰を上げたように再び打って出ようとしていた。


 初老の偽ナイトメアが、【ほーさん】姿の偽ナイトメアを横目で見る。キノコの色は毒々しさを一層増しており、まだ麻痺は解けないだろう。
 現在地からできる攻撃は限られていた。清己か佐織と双葉、そして自分からでは沙希しか影響下にないランページだ。悪夢爆弾なら鈴音とケルも入るが、入っているだけだった。能力者達の後衛陣にも、仲間の支援はできる位置まで下がられている。
 初老の偽ナイトメアは嘆息しながらサイコフィールドを展開させ、回復とガードアップを図ってきた。
 援護される前ならば、偽リュナを佐織の爆水衝で打ち倒せていたかもしれないが……。
(それでも!)
 佐織は偽リュナを倒すことだけを考えた。
 偽リュナが吐血する。毒が更に体内を回り、サイコフィールドで癒された体力を大幅に奪った。沙希のダークハンドが注ぎ込んだ強力な毒なら当然である。
 しかし、頭からも唐突に血を流し始めた。顔の半面を紅く濡らしていく。住宅街の塀まで吹き飛びはしたが、激突による頭部の損傷はないはずだ。
 リュナ本人が夢の中で殺された時の死因は、頭を打ったということなのだろうか。
「助けて……」
 冷たい微笑を浮かべ、偽リュナは腕を少し広げた。抱擁で超締め付けをしようと、佐織に接近していく。一見隙だらけのようにも思えたが、怪我をしているような見た目からは想像し難い軽やかな所作だ。
 偽リュナの指先が少し触れた。だが服を引っ張られる前に、佐織は紙一重で躱す。
 表情だけではなく、掠めた指先の体温も死者のように冷たかった。悪夢の衛兵だからなのかと、疑問は尽きないが……。
 偽リュナは間近。カウンターを仕掛けるにはもってこいのタイミングだ。
 佐織は全部絞り出すように体内の水分を掻き集め、エネルギーを練り上げる。喉が渇きを訴えてきた。だが口内に残っていた唾を嚥下し、一時的な喉の潤いで我慢する。
「これで!」
 渾身の爆水掌が偽リュナを捕らえた。その力が偽リュナを再度後方に押し戻す。
 しかし、偽リュナの体が塀まで飛ばされることはなかった。極限まで高められた力が必殺の一撃となったからだ。たとえ無傷だったとしても倒れていたはずだ。
 偽リュナの体は、爆水掌が当てられていた部分からすでに崩壊が始まっていた。夢世界の一部として夢へ還っていくように消失していく。
 妖しく笑っていた偽リュナは、最期に口元を綻ばせ……微笑んだ。
 能力者達は対面したことがないのに、リュナ本人が笑みを浮かべたように思わされた。心のない者には、決してできない感情の変化だろう。
(……動揺を誘っているのか?)
 違和感を覚える清己だったが、それに気を取られて詰めの甘い攻撃はできない。再び超マヒにさせようと、パラライズファンガスの力を初老の偽ナイトメアに放つ。
 初老の偽ナイトメアは眼光鋭くした。力を力で捻じ伏せたように超マヒを防ぐ。
 清己は眉を上げた。手応えはあったものの、単純に力で抑え込まれてしまったようだ。
 封術が解除され、呼吸を整えようとした双葉の目に偽クリューナ夢衣が映る。偽リュナが死んだとでも思っているかのように茫然としていた。
(偽者や夢なんかに掛ける言葉は、ないわ)
 双葉はもう一度心中で呟きながら偽クリューナ夢衣に肉迫する。
 偽クリューナ夢衣は完全な状態だ。偽ナイトメア達の強化をするかもしれない。ナイトメアランページの真似事がどれほどの脅威かは、現時点でも不明だ。
(もしものことがあって、クリュを泣かせるくらいなら……)
 双葉の突撃にようやく気付き、偽クリューナ夢衣が身構えた。だが今度の紅蓮撃は仕込み杖の刃を弾く。跳ね飛ばされまいと柄を握り締めたらしく、武器は手放されなかった。
 代わりにガードががら空きになり、双葉が燃え盛る魔炎を纏った緋刃麗手を振り下す。
 無防備でいるわけにもいかず、偽クリューナ夢衣は紅蓮撃を右腕で受けた。緋刃麗手の爪が右腕と右肩を抉る。同時に魔炎が肉を焼く。焦げる臭いや煙が出たりはしなかった。
 しかし、痛みが有るのか無いのか、鋭利な爪に突き刺されながら険しい表情をしている。
 魔炎の熱が弱まっていき、双葉は封術状態になりながら数歩下がった。
 鈴音は……超眠りから目覚めない。原因である悪夢爆弾を放った【ほーさん】姿の偽ナイトメアもパラライズファンガスを使ったミシェルが超マヒにした。
 結社の仲間を眠らされ、偽ナイトメアを麻痺させたら、両者も囚われたまま……。何とも皮肉な話ではないだろうか。
「沙希さん、小さな春さんに魔弾を撃ちます!」
「よし!」
 ミシェルの掛け声と共に、沙希は偽春を穿つためにダークハンドを伸ばす。
 正面に対峙していた者からの黒爪よりも、偽春は別の物に気を配っていた。魔弾の射手によって描かれたミシェルの魔方陣である。精々一撃もらい、毒を受けるくらいにしか想像していなかったようだ。
 沙希は地面を走らせていたダークハンドを急加速させ、馬鹿正直とも見て取れる真っ向から刺突する。偽春の油断によって普通以上の成果を導き出し、痛手を負わせた。
 沙希の後方で、雷鳴のような音が殷殷と轟く。開かれた魔道書から溢れる魔力を圧縮し、ミシェルが魔弾に雷の属性を編み込み終えていた。魔方陣から閃光が走り、迸る光が力を高める。そうして雷の魔弾がより高密度になった。
 ミシェルが魔道書を閉じる。右手に構えるは、手の平サイズの積乱雲のように稲妻を走らせている雷の魔弾。見据えるは、直線上にいる偽春。
 雷の魔弾が思いがけないダメージを負った偽春を追い詰めた。沙希がダークハンドを最高速にしなかったのは、ミシェルの魔弾を待っていたからである。
 二人の息が合った気魄と術式の攻め手を、偽春は切り抜けられなかった。
 能力者達の猛攻は、悪夢の衛兵の戦力を確実に削っている。
 偽リュナは還った。蟲の知らせを使える者がいれば、偽春も後一歩のところで喰らえないも同然の体力しかない。
 偽クリューナ夢衣の体に点いた魔炎は、火の粉を落とすような手つきで消されてしまった。そして仕込み杖の柄を向け、双葉の懐に入り込もうとしてくる。紅蓮撃の火力を前に、回復が間に合わないと見越したようだ。当て身で急所を打ち、超気絶させるつもりらしい。
 当て身は実際だと簡単に気絶するものではなく、的確な急所に当てる技量と運の要素が必要だという。だがここは夢の世界。そんな常識を覆すなり、技量と運があることにするのは容易だったはずだ。
 鈴音は攻撃で支援する前衛の一人だった。前衛が二人もいなくなれば、能力者達の気勢を殺げる。
 しかし、双葉は緋刃美手の甲に当てさせた。命中しない当て身は、特別怖くもない。
 瀕死になっていた偽春はその場に頽れた。膝を付いたのは毒のせいだけではなさそうだ。偽リュナが消えたことにショックを受けているようにも見える様だった。
「ア゙ァ゙……」
 春は口を半開きにした偽春が不気味な呻き声を漏らす。そして一呼吸の間を空けた途端に、狂った声に変わった。絶望、不安、恐怖……誰しも一つは負の感情を抱えたことがあるだろう。そんな経験の記憶が甦ってきそうな絶叫だ。
 悪夢世界に耳を劈くような絶狂が響き渡った。脳を揺さ振り、心を壊そうとするような狂い様である。だが無茶が祟ったように咽び、その後の掠れた声では長く叫べなかった。
 音の攻撃でも特性は能力者達のアビリティと同じ。絶妙な位置にいた紅蓮と琴音には通用しない。双葉も音を遮ろうとするように緋刃麗手を顔の前に出していた。
 沙希の背に守られているためか、深い眠りだからこそか……鈴音も絶狂の効果はない。
 しかし、ケルは起きることができ、前足で目を擦るように自分の顔を撫でた。目を瞬かせたあとに、主人の鈴音を心配そうに見上げる。
 偽春の絶狂は悪夢の衛兵側にとっての逆転の一手とはならなかった。
「傷は浅いよ」
 浄化の風が能力者達の小さなダメージを回復させた。だが鈴音が起きる気配はない。紅蓮が悔しそうに眉を顰める。
 ケルは尻尾を翻し、【ほーさん】姿の偽ナイトメアの攻撃圏外となる地点に退避した。そして後ろ足で立ち、器用に両前足を合わせる。祈りを捧げるが、小さな人工生命体の祈りは非情にも天に届かない。
 戦闘においては大声でしかなかった攻撃に対し、琴音は思うところがあった。春にも絶狂の声そのものは届いたことである。
「これ以上、姉様達の姿で心を穢すようなことは、しないでください」
 今度こそと念じ、琴音は高麗笛の音色を操った。夢の中でも夜ということを考慮しているように控え目な笛の音だ。魔法の茨が白燐蟲の力を借りたように多数生まれ、動きの鈍っている偽春を捕らえる。
「ごめんなさい姉様、春さん。偽物とは言えお姿を」
 何層にも絡み合い、偽春を締め付けたかに見えたが……。
「痛いよ……痛いよ……」
 偽春はさめざめと泣き始めた。茨が枯れていき、拘束を解く。腐食するように黒く変色した茨もあり、偽春の毒を吸収させられているかのようだった。
 魔法の茨は最大の力を発揮している。先に述べたとおりに琴音の全力である。
 しかし、偽春が乏しい魔力で抵抗し、茨を朽ち果てさせた結果だった。
「ドウヤラ、勝機ノ風ハ貴様等バカリニ吹イテハクレナイヨウダナ」
 初老の偽ナイトメアは嘲笑し、獲物に標的を定めた獅子のような目で能力者を見る。
 偽者のナイトメアが今まさに……暴れようとしていた。


 初老の偽ナイトメアの正面虚空に魔力が胎動し、更なる分身が創造された。ナイトメアの姿を模った魔力体が具現化され、双葉を視界に捉える。
「行ケ」
 幾戦の戦いに身を投じてきた能力者ならば、ナイトメアランページを目にしたことがあるはずだ。そんな見慣れたはずのナイトメアランページが真正面から双葉の下に――。
「!」
 一気に肉迫してきた。その刹那に、双葉は瞬きなどしていない。
 偽クリューナ夢衣と交戦中だった双葉は、後衛陣の支援も及ばない前線まで来ていた。初老の偽ナイトメアからある程度しか距離をとれていなかったが、異常な速さである。
 かつてのナイトメアランページのキレを彷彿させられた。現実世界では世界結界に力を制限されているのだろうか。ナイトメアの身代わりを務めるような悪夢の衛兵だけに、その威力も絶大だった。
 初老の偽ナイトメアの魔力が砲丸のごとく、双葉しかいない射線上を駆ける。そして双葉と衝突し、その場に尻餅を突かせた。
 しかし、突き飛ばされなくとも重量感のある攻撃だと思わせるには十分だろう。
 唖然とさせられた能力者達だったが、逸早く清己が怒鳴った。
「平賀!」
 偽クリューナ夢衣が左から接近し、仕込み杖を振り翳したところだ。
 双葉は咄嗟に緋刃麗手でガードしようと思うも腕が上がらなかった。胸も一瞬痛んだ。強烈な突進に腕が痺れていたようだ。肋骨にはヒビが入ったのかもしれない。
 偽クリューナ夢衣は躊躇しなかった。魔力放出により鋭さを増していた刃の斬撃が双葉を襲う。
 初めて、この悪夢世界に能力者が血を滴らせた。双葉の左肩に仕込み杖の刃が埋まる。そして意味がなかった怒りの表情を冷笑に変え、偽クリューナ夢衣が包丁のように刃を引いた。
 飛散した双葉の血飛沫が周りのモノを赤く染め、左肩から流れた鮮血が血溜まりを作る。
「双葉!」
 仲間達を見守っていた本物のクリューナ夢衣が叫ぶ。
 毒を浄化した偽春はクリューナ夢衣の叫びを掻き消すように絶叫した。だが直後に咳き込み、絶狂が止む。
 叫びの力は元より双葉に効かなかった。無意識に防衛本能が働いたからだ。残り僅かだった命は刈り取れず、佐織や清己、ケルもミシェルも効いた内に入らない。
 双葉は大量の出血により、意識が混濁していた。身動きが取れずにいたその頭上を、水刃手裏剣が通過していく。
 偽クリューナ夢衣の注意を自分に向けるために、佐織が投擲したものだ。それは偽リュナに投げ打たれた水刃手裏剣とは別物の大きさだった。
 攻撃を迎え撃つ……そのつもりだった偽クリューナ夢衣は、意表を突かれたようだ。仕込み杖で受けたものの刃を砕かれ、極大の水刃手裏剣が体を貫く。
 清己は効力を凝縮させたギンギンパワーZを精製していた。ソードブレイカーで蓋を切り落とし、双葉に投げ付ける。開封の手間を省くためであり、多少零れても大丈夫だ。双葉の左腕にかかった栄養ドリンクが、双葉の長い髪や緋刃麗手を伝った。
 特製のギンギンパワーZが左肩の傷を少し治す。そして緋刃麗手の魔炎が液体を蒸発させ、瓶が双葉の右手に掴まれた。栄養ドリンクの味に、興味はない。
「ありがとう」
 髪が濡れていようとも気にせずに飲み干し、肩の傷がほぼ完全に塞がる。空瓶になったギンギンパワーZは無造作に投げ捨てられた。だが草原に落ちる前に消滅する。
 消えゆくものは、もう一つあった。
 偽クリューナ夢衣である。紅蓮撃のダメージがなければ、あるいは偽春のように耐え切っただろう。消失前にやはり訝しく思えるような表情に変え、夢へ還っていく。
 能力者達の目に飛び込んできたのは、最期に苦笑した偽クリューナ夢衣だ。
 双葉が錯覚しそうになった。本人に、「ごめんね」と謝られたように思える顔付きだったからだ。
(……クリュは、後ろにいるのだけど)
 還された者もいれば、呼び覚まされた者もいる。
 偽春の声により、鈴音が覚醒し、前髪に隠れた瞳を静かに開けた。そして偽リュナの不在と偽クリューナ夢衣が消失する瞬間を目撃する。
「……状況はここまで進んでいたんですね」
 最後に、今度も麻痺のキノコを落とせなかった【ほーさん】姿の偽ナイトメアの様子と、偽春が疲弊していることが分かった。
 封術が解けた双葉は殆ど万全とも言える状態である。だが超マヒになっている【ほーさん】姿の偽ナイトメアの近くに移動し、森羅呼吸法の体勢に入った。悪夢の衛兵達が焦ったおかげで心を無にするには持って来いなタイミングだ。
 丁度草原という舞台である。直に大自然の息吹を感じながら深呼吸し、呼吸と気の流れを整えた。左肩の傷が完全に無くなり、いつもより漲った力を送るように緋刃麗手に力を込める。
 もはや小突けば倒せるほどに弱っている偽春の下に、沙希は駆けた。
「鈴音!」
 沙希が駆ける前に目配せした意味を悟り、鈴音が沙希の後ろになる位置を取る。
「全力で、いくよ。けるちゃん」
 鈴音は召還するように使役ゴーストの名を呼んだ。
 形質を気体のように変えたケルが透明化し、鈴音の体内に吸い込まれた。ゴースト合体の効果で主人の力とケルの力が融合する。合体すると荒ぶる鈴音の心と真ケルベロスベビーに潜在する獅子の心が咆哮するように力を引き上げた。
 鈴音は大型ガンナイフ二挺を所持している。【暴君の魔銃】だ。
 片や赤と黒の装飾を施されながらも無骨かつ凶暴な【Cthugha】、片や研ぎ澄まされた刃のように美麗かつ冷酷な銀の【Ithaqua】。
「ここまで怒った事はないですから、今の私は限りなく残虐で無慈悲で冷酷ですよ。今の今まで眠らせてくれた分も、返させてもらいます」
 心成しか武者震いをしているような殺気を放つ【暴君の魔銃】を、【ほーさん】姿の偽ナイトメアに向ける。
 麻痺状態だから意識がハッキリとしている相手にとっては、最高の脅しだろう。
 鈴音が撃つ雑霊弾の射線を作るためにも、沙希は掲げた漆黒の十六夜に闇のオーラを纏わせた。現実世界の闇夜よりも黒く変色した深淵の黒影剣。十六夜を振り切り、偽春を一線する。そして一文字に斬った偽春の体が腰から上下に分離した。
 もう、偽春も戻っていい頃なはずである。下半身はすぐに、上半身は断面からだんだんと消失していく。
 最期に苦し紛れの絶狂でも断末魔でもなく、偽春が本当の子供みたいな泣き声を上げる。迷子の少年が母親と再会し、安心して泣き出したかのようであった。
 夢へ還ろうとしていた偽春の残した残滓の光が沙希を包み込む。黒影剣の効果による回復効果だ。偽春の絶狂を聴いてから感じていた鈍痛が無くなった。
 紅蓮が悪夢の衛兵達を見る。残すところ偽ナイトメア二体となった。
(邪魔者は、いなくなったようだな)
 悪夢爆弾のみは来るが仲間達の回復が可能な位置に、後衛陣が移っていく。
 ミシェルの前に移動した琴音は、魔道書に白燐蟲の光を届けた。魔道書の魔力と反応するように、白い輝きが脈打つように点滅する。
「ミシェル先輩、あちらの方々の回復をお願いします」
「はい」
 魔道書を抱えたミシェルは琴音と交差する。二人とも当然のように悪夢爆弾を纏めて受けない距離を見極めた。
「悪夢爆弾は来るかもしれないけどな。さて、どうなるか」
 沙希が前線に出るまでの紅蓮は、状態異常を回復できる者同士が効果範囲内だった。
 当初の予定通り、現在は沙希と別々の位置に立っている。
 【ほーさん】姿の偽ナイトメアが動けない現状では、敵に決定打はない。踏み込むリスクを背負う必要は何処にもなかった。
 初老の偽ナイトメアは能力者達の陣形を眺めながら蔑みの言葉を呟いた。
「役ニ立タン人形共ダナ。所詮ハ人間風情ガ基ダッタカ」
 目つきを鋭くした紅蓮が初老の偽ナイトメアを睨む。
(弱くしたのは、何処の誰だか)
「そう生み出したのは、本体のあなたでしょう?」
 無言の紅蓮に代わり、琴音が反論した。昆虫のように無機質な殺意に満ちた視線を、偽ナイトメアに一瞬だけ向ける。
 しかし、琴音は軽く頭を振って正気に……。強敵を相手にしている今だからこそ、心を静めなければならない。
「偽者の姉様達だったとしても、馬鹿にしないでください」
「フン、ナラバ余興ハ終ワリトシヨウ」
 遊びのようなものだと言いつつも、初老の偽ナイトメアの態度は一律だ。つまらなそうで、軽微な感慨に浸っている様子すら微塵も感じられない。
 偽ナイトメアとの激闘は、これから始まり……急速に終わりを迎えようとしていた。


偽シナ【エンド・オブ・サートゥン・ナイトメア】リプレイ3
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