春の夢のクリューナ

PBW 《シルバーレイン》のPC・クリュについて色々書いてます。 全体の書き方は背後とPC混じりです。                   分からない人は回れ右しようね。お姉さん(お兄さん?)との約束だよ(by背後

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

スポンサー広告 |

偽シナ【エンド・オブ・サートゥン・ナイトメア】リプレイ4

偽シナ【エンド・オブ・サートゥン・ナイトメア】リプレイ3

続きから、どうぞ!



●ナイトメアはかく語りき
 草原の緑を静かに撫でていく風、誰も存在しない閑古鳥が無く住宅街……。それらの空間の狭間に、能力者達は佇んだままである。
 一箇所に固まらないようにしながら、能力者達は次に備えて態勢を整えた。
「皆、大丈夫?」
 クリューナ夢衣は離れた位置からサイコフィールドを展開させた。全員に再びガードアップの効果が及ぶ。
「平賀も大丈夫そうだな」
「ええ、大丈夫よ」
 双葉の防具は自動修復の機能がしゃんと働いていた。清己が最大効果を及ぼすギンギンパワーZを精製してくれたおかげだ。
 エンチャントの効果が無くならないということは、まだ戦いが終わってない証拠である。
 しかし、ナイトメア本体は姿を見せようとしてこない。
 戦闘中も含めて十分以上が経過し、鈴音のゴースト合体が切れてもその状態は続いた。
 ケルが鈴音の肩の上に戻り、落下しないようにした鈴音の手を舐めてくる。鈴音はゴースト合体が解け、少し気分が落ち着いた。ふと空を見上げてみる。
「あれは……」
 全員が空を仰ぎ見る。擬似的な快晴を創造した夢世界の空に、一点の雲が存在していた。
 ――違う、雲などではない。戦闘に備えた能力者達が散開する。
 身辺に隙間無く白い霧のようなものを纏ったナイトメアが静かに降臨してきた。初老の偽ナイトメアが模っていたのは、やはり本体のようである。より草臥れた毛並の様は、霧によって白っぽくなっていても、ペガサスとは言い難い粗末さだった。
「あら、ほーさんに比べると貧相で毛並みの悪いナイトメアですね?」
 挑発も兼ねた探りを入れるために、琴音がつまらなそうな口調で言い放つ。
 しかし、初老のナイトメアは白い霧から薄らと嘲笑を覗かせてきた。馬の耳に念仏と言わんばかりの皮肉染みた笑みだ。
「こんな下郎ですもの、みっともなく泣いて逃げ出しそうですからさっさとやってしまいましょう」
 琴音は再度挑発をした。今度はあくまで初老のナイトメアがどう動くか探るためである。
 初老のナイトメアは、全く耳を傾けなかった。
 生死に係わる反撃を懼れる必要がないからか、ケルがいの一番に飛び掛る。だが白い霧だけではなく、初老のナイトメアの体まで擦り抜けてしまい、牙を突き立てられずに終わった。
 霧と同化しているかのような初老のナイトメアは、実体で現れなかったようだ。
(……効かない?)
 初老のナイトメアの行動次第で、佐織は攻勢に転じるつもりだった。まだ様子を見た方がいいだろう。
「ケルちゃん!」
 鈴音に呼ばれたケルは、初老のナイトメアの中から出た。脱出の最中に、連爪撃を繰り出そうと鋭い爪を振るう。
 今度は金切り声のような雑音が響いた。
「それで終わりか?」
 初老のナイトメアが鼻で笑ってきた。白い霧は部分的に自在に硬度を変えられるようだ。
 鈴音は身構え、ケルをゴースト合体で再び体内に宿した。
「こっちのペースに引きこんだほうが有利! 踊れ踊れぇ!」
 ダンシングワールドで自己強化も兼ね、紅蓮は踊り始めた。戦闘中に蓄積させた荒ぶる魂を解放……いや、更に高揚させるような激しい舞だ。
 白い霧が渋々踊りに付き合うように、初老のナイトメアの周りを小刻みに流動する。
 肝心の初老のナイトメアは悠々と座り、淡々と訊いてきた。
「気は済んだか?」
 逆に、ミシェルも訊くつもりだったことを問い質した。
「ほーさんとお知り合いなんですか?」
 沈黙した初老のナイトメアがクリューナ夢衣に目線を移す。そのまま半眼で、重たい口を開いた。
「お前を呼び寄せる機会を、ずっと探っていた。その男には、私の攻撃は届かない。少し語らせてもらってもいいだろう?」
「……?」
 クリューナ夢衣が初老のナイトメアを睨む。確かに、春まで危害は加わりそうにない。
 この場は先程のようにまた従うしかないだろうか。
「始めからそのつもりだった。改めて、自己紹介しよう」
 初老のナイトメアがどこか濁っているような双眸で、クリューナ夢衣と春を正視する。そして……言った。
「私は、お前達にとって大切だった者の仇だ」


 初老のナイトメアがリュナの仇……。それは【ほーさん】姿の偽ナイトメアを目にした時から、クリューナ夢衣には確定事項のようなものだった。
 しかし、春はそういうわけにもいかない。初老のナイトメアが告げたことに愕然とする春を余所に、話は続けられる。
「ふむ……。では、更に時を遡って話をするか」
 まだ世界結界が創造される前のことである。
 主に、夫婦となっている者の夢世界を渡り行く二体のナイトメアが存在した。彼等は他者に悪夢を見せ、力を蓄えるナイトメアの本質にあまり興味がなかったようだ。望んできた夢世界を創造する代わりに、そこで時を過ごす。たとえ本人が切望する夢でも幻に過ぎないが、それでも心からの願いだ。その時代では、そう思う者達も少なくなかっただろう。
 ナイトメア適合者となれる者に、居続けて欲しいと懇願されたりもした。永続的ではなくとも、暫くなら滞在する……そんな日々を送っていたのだ。
 やがて、世界結界が人間によって地球全土を覆った。
 二体のナイトメアは封印の誘いを受け入れ、長い、長い眠りに就く。そして気が遠くなるような年月を眠り続け……。
 ある時、ふと目覚めた。
 誰でも体験がありそうな、一夜限りの悪夢は常識の範疇だろうか。悪夢の全てがナイトメアの仕業かどうかも、基本的に夢世界で生きるナイトメアに【見えざる狂気】が発症するのかも分からない。
 ともかく、二体のナイトメアの内の一方が力を渇望した。一度は素直に甘んじた眠りから免れようとしたのだ。
 片割れのナイトメアはその後、人間のパートナーを得た。そして行動を共にするようになる。
 一方、友を捨てたナイトメアは毎夜に夢世界を渡り続けた。悪夢に捕え続けなかったのは、穏やかと言えた頃の習性が身に染み込んでいたからかもしれない。
 そして運命の糸は、彼等を最悪の形で再会させた。
 正確に言えば、片割れのナイトメアはパートナーの中からだ。そのパートナーの夫に、
友を捨てたナイトメアが入り込んできたのである。
 夢世界の居場所を違え、彼等は言葉を交わすこともできず……。
 邂逅の代償に、片割れのナイトメアのパートナーは命を奪われた。完全な能力者ではなく、戦う術が無かったからである。
 彼等が、決別した瞬間だった。
 遠い目をした初老のナイトメアが地面を見下ろす。語り終えたらしい。
「私も能力者の素質がある者と出会っていれば、そうはならなかったかもしれないが……」
 初老のナイトメアは徐に立ち上がった。
「言い訳をしても意味が無いだろう。私が殺したということは覆らない。ただ一人、私が殺した相手だ。今ここで、私の命を絶つかどうか、その選択肢はお前達が握っていることになる」
 この言葉だけ聞けば、抜け抜けと……そう思える。だが自嘲するような初老のナイトメアの表情は何か変だった。
「私達が漸く相見えた時点で、答えは目に見えているか」
「ようやく……?」
 声を失ったように黙っていた春が呟いた。
「そうだ。お前の娘が一年程前に能力者として覚醒し、仲間を得てから何度もこの時が訪れるようにしてきた」
「……どういうこと?」
 今度は、クリューナ夢衣が問う。
「運命の糸とは、面倒なものだ。初めは、その男に悪夢を見せる振り……単なる挑発だった。だがそれでは運命予報とやらの対象外になるらしいな。だから、これまでに何度かほんの一時ばかり悪夢に捕らえもしてみた。そして今日、来るべきお前がやってきたというわけだ」
 初老のナイトメアはそう言ってクリューナ夢衣を見据えた。
「一対一の一騎討ちか、仲間達と共に戦うか。どうする?」
 今後悪夢に捕らえられないために、春はこれから心を強く持たなければならない。
 しかし、それはクリューナ夢衣にも言える。目の前にいる初老のナイトメアを、復讐に囚われた状態で始末するわけにはいかない。そうすれば、一生拭い去れない復讐の虚しさを味わう可能性もある。
「敵を討ちますか?」
 ミシェルが遠くから声を掛けてきた。仲間の言葉ならば、幾分か答え易いだろう。
 どの道、仲間の手を借りなければ倒せない強敵だ。
「……」
 本心では、仇として討ちたい想いがあるかもしれない。それでも皆と無事に帰るために、クリューナ夢衣は仲間達に視線を向ける。
 目を合わせた佐織が頷く。それはクリューナ夢衣の決断する心に、背を叩いたり押したりしてくれたような気持ちを感じさせた。
「――皆、力を貸して!」
 クリューナ夢衣の答えが決まった。その言葉に、臨戦態勢の能力者達が初老のナイトメアに武器を向ける。
 初老のナイトメアは自分を囲む能力者達を一瞥した。 
「そうだ。言い忘れていたが……力を必要とさせたのは、世界結界が招いたことだ」
 最後に、クリューナ夢衣に目線を戻し、不敵な笑みを浮かべた。
「確かに、私は力を欲した。だが力を求めたことを、恥じるつもりも後悔するつもりも……無イ」
 つまり、そのままの意味で解釈すれば……。 
 白い霧が黒く変色し、忽ち黒煙のように真っ黒となる。見覚えがある深淵の黒は、まるで悪夢その物を象徴しているかのようだ。
「愚カ者メガ……。私ハ十数年モノ間、力ヲ蓄エテキタ」
 サイコフィールドのようなバリアと化した【暴蝕の悪霧】を四方八方に展開してくる。
「悪戯ニ仲間ヲ危険ニ晒スダケダト言ウノニナ」
 初老のナイトメアの輪郭も鮮明になっていく。どうやら、実体化したようだ。
 積年の因縁に終止符を打つには、余りに短過ぎる決戦が始まった。

●ナイトメアの挽歌
 能力者達は咄嗟に身構える。そして清己と紅蓮が叫んだ。 
『来る――』
 初老のナイトメアの斜に位置していた黒い霧が膨張する。その部分だけが四つの塊と化して牙を剥いてきた。
 黒い霧は漆黒のナイトメアの形状を成し、火砕流のように襲い掛かってくる。称するならば、全周範囲で襲い来るナイトメア軍団の大行進だ。先程一番に攻撃を仕掛けてきたケルにだけではない。クリューナ夢衣を除いた能力者八人を包み込むように通過していく。
 基が気体でもある黒い霧を凌ぐのは至難の業だった。
『――ッ!』
 ミシェルや琴音の後衛陣、そればかりか前線を張る沙希や双葉、前衛にもなれた佐織の体力までもが持っていかれた。
「皆!」
 能力者達は体内を黒い霧が脈動するような感覚がした。心身が蝕まれる気持ち悪さが、断続的に込み上げてくる。そして全員の生命力が極限まで吸い尽くされてしまった。
 しかし、誰も凌駕には至らない。何故なら、体力が倒れるか倒れないかの瀬戸際で残ったからだ。
 鈴音のゴースト合体も効果が持続していた。
「こ、これは……?」
 慈悲のような特殊効果が働いたらしい。それにどんな目論見があるのかは不明だ。
「…………」
 初老のナイトメアは黒い霧の奥で、不意に焦りのような表情を覗かせた。
 思えば、初老のナイトメアがあえて実体化してきた意図が掴めない。もし黒い霧を操っているとするなら……。窶れた雰囲気になっているも、アレを創造するために、力を練り出したからかもしれない。
 どちらにせよ、ナイトメア本体を倒す機を熟するなら今である。何より長引けば、能力者達が持ち堪えられないだろう。
「気が変わって、逃げられたら……元も子も無いな」
 清己はこの時に備えて使わないでいた、打ち止めのパラライズファンガスを使った。黒い霧が阻まなかったらしく、初老のナイトメアに自由を奪うファンガスの烙印を刻む。
「フン、今更コレカ?」
 ダメージを喰らうアビリティではないためか、軽口を敲いてくる。
 しかし、後は初老のナイトメアまでの道を切り開くだけだ。
「一点集中です」
 体力低下で【暴君の魔銃】二挺の重さを感じながらも、鈴音は銃口をしっかりと向けた。そしてガンナイフに濃縮された気を纏わせる雑幽弾で、初老のナイトメア正面の【暴蝕の悪霧】に撃つ。
 【暴蝕の悪霧】は防御を固めるために、黒い霧を集合させた。硬化した表面は雑霊弾によって盛大に破損するも、黒い霧が破損部分を直そうとする。
 沙希は迂闊に突っ込もうとはせず、ダークハンドの黒い腕を生み出した。そして雑霊弾の被弾箇所に間、髪を容れず力一杯殴打した。
 毒手とも呼べるダークハンドが、黒い霧を毒の追加効果にできない毒霧に変質させる。
「ミシェル!」
「はい!」
 ミシェルは二人がアビリティを駆使している間に、雷の魔弾を作り上げていた。
 魔方陣を通して射た雷霆の弾頭が黒い霧に命中する。硬化している部分が窪み、ダメージの具合がはっきりと目に見えてきた。三度与えた攻撃は効いている。雷光が稲妻のように黒い霧の表面を流れた。
「まだ終わりじゃないわよ!」
 水刃手裏剣の尖端が光に導かれるかのように、窪んだ所に突き刺さる。佐織の投擲は一切の狂いも無い。刃先が黒い霧に小さな穴を開けた。佐織もまた、次に繋いだ。
 次期に、初老のナイトメアの姿がクリューナ夢衣の前に晒されるだろう。
 初老のナイトメア正面にある黒い霧の右サイドから、双葉が身を翻す。
 双葉は移動しながら左腕を振るった。そして抉じ開けるように引き裂こうと、傷の穴に爪を立てる。紅蓮撃が途轍もない威力で穿たれるのは二度目だ。穴の付近を壊し、魔炎も空気を熱しながらも溶かし、広範囲の皹を入れた。
 恐らく、今の紅蓮撃と同じクリティカル級の攻撃を、もう一度加えれば大破するだろう。
 一か八かの状況は嫌いじゃない。紅蓮がヒロイックフィーバーを仕掛けようと前に出る。
詠唱銃を問答無用で黒い霧に叩き付けた。
「後衛としちゃ、こういうこともやれないとね」
 そして零距離射程で引金も引いた。
「伊達にダブルクロスガンナーって名乗ってるわけじゃないんだぜっ!!」
 黒い霧の修復よりも速く連射される魔力の弾丸と殴打の破壊力が勝り、皹が更に広げていく。打撃と射撃を織り交ぜて重複する攻撃は、宛ら銃格闘の演舞だ。二十連撃目のフィニッシュに鳴り響いたファンファーレと共に、紅い煙が舞い上がった。
 硬化していた【暴蝕の悪霧】の大部分がガラスのように砕け散り、活路が開けた。これで正面からならば、奥にいる初老のナイトメアが確認できる。
 しかし、黒い霧はまだ完全には消滅していなかった。
「死ニ損ナイニ用ハ無イ!」
 後方と左右、大穴が開いた黒い霧までもが、毒と魔炎に侵食されながらも膨れ上がる。
 無情なる黒い霧の攻撃が紅蓮諸共、能力者達を包み込んだ。今度は春を除き、クリューナ夢衣も対象とした能力者全員である。
 もう、あの特殊効果は働かず、能力者達の命を繋ぎ止めていた魂を喰らっていく。
 ミシェルはある教えを思い出した。幼い頃、家庭教師に――。
『男の子はカンタンにへこたれちゃダメだ』
 そう教わった。根性を見せるなら、今がその時だろう。
「こんなとこで倒れられない……クリュさんを悲しませたくない……! 沙希さんや鈴音ちゃんも助けなきゃ!」
 男子のミシェルは、踉めきながらも立ち上がった。
 鈴音の中で、何かが吼える。それは使役ゴーストのケルだ。主人の精神が屈さないようにしているらしい。
 それならば、主人として倒れるわけにはいかない。気力で堪えた。
「――倒れません」
 ゴースト合体が解けるも、鈴音はケルと並ぶ。
 双葉はただクリューナ夢衣を泣かせられないという想いだけがあった。だがそれ以上に必要な気持ちも、今は無い。
 自身が、許せない戒めるべき者にならないためそのまま立ち続ける。さすがに、足元は覚束無かった。
(……クリュ)
 紅蓮撃は後一回しか使えない。だがその一回で、片が付くだろう。クリューナ夢衣が動く時を待つ。
 一度倒れた佐織も、ゆっくりと立ち上がって武器を構えた。正直立っているのがやっとだ。
(――大丈夫。夢衣と夢衣の家族は、必ず守ってみせるから)
 黒い霧によって視界を暗闇に覆われる前、佐織はクリューナ夢衣と目が合った。
 その時、無理矢理に笑顔を作って安心させていた。その約束を果たすため倒れられない。
 清己は先々月のあの日を思い出した。
 以前向かった、百鬼夜行の阻止に出発する前のことである。一度悔いは無いようにした物事があった。
 そして再び満足していられない状況になっている。秘めたる想いを伝える時が、あるかは定かではない。だが鞭を打ってでも、その身を起こした。
(――こんな所でやられるわけにはいかないな)
 沙希を奮い立たせる発破となったのは、立ち続けるか、倒れまいとする仲間達だった。
(まだ、誰も倒れていない。まだ仲間が立っている。なのに、自分だけ寝ているわけにはいかない。気合を入れろ。この身は盾であり壁。守るべき仲間がいる限り、崩れてなるものか!)
 いざとなれば、全攻撃を受けてやると思う程にやはり意志は固い。
「もう好き勝手にさせて堪るか!」
 紅蓮は怒涛のヒロイックフィーバーの直後に、黒い霧からの攻撃が直撃していた。
 しかし、ダンサーは無意味に踊りの途中で退場をしないはずだ。いや、意味があっても拘りある踊り手なら、それは愚問だろう。
「まだ止まっちゃダメだ! 一気に決めるんだ!」
 結末を、ラストを、見届けるまでは休んでなんかいられない。
 起き上がった琴音が低く呟く。
「自らの巣を荒らす者を、我ら蟲は絶対に許さない。我らはあなたに死を宣告します。何度我らを打ち倒そうとも、もう逃れることはかなわない」
 その言葉を心中で反芻、アビリティの力を行使するために集中する。
「……ッ」
 【暴蝕の悪霧】の黒い霧による侵食は、無傷だったクリューナ夢衣でも耐え切れなかった。
 しかし、クリューナ夢衣には付いている人がいる。
「夢衣!」
 春だ。能力者ではない者が黒い霧に触れるのは、命に係わるから許されない。それでも倒れまいとするクリューナ夢衣を、庇ってくれている娘を支えることくらいはしてやれる。能力者達が立ち続けられるなら、娘のクリューナ夢衣もできないわけがないと思っていた。
 そしてクリューナ夢衣は、守るべき者のために絶対倒れない。
 魂を奮わす肉体の凌駕をもって、能力者達は最終的に誰一人地面に平伏さなかった。


 攻撃を終えた【暴蝕の悪霧】が黒い霧の補修を始める。
「コレデ倒レナイノカ……」
 現在の黒い霧は硬化状態をすぐに解けないのか、閉じる勢いがてんで遅い。
「させませんよ」
 琴音は茨の領域で、硬化中の黒い霧を締め付ける。魔法の茨を穴に引っ掛け、閉鎖を抑えた。春の想いが力を貸してくれたかのように、茨の魔力は満ち溢れている。
 他に位置する黒い霧は気体のままらしく、固形でない物を搦め捕るは無理だった。だが穴さえ閉ざすことさえ防げれば上々だ。
 仕込み杖【Holy-Nightmare】の切っ先を正面に向け、クリューナ夢衣が杖の魔力を操った。ナイトメアランページで自分の夢の中から、パートナーを呼び出す。
 顔の右に紋様がある白い毛並のナイトメア、【ほーさん】が春の夢世界の草原に姿を現した。
 【ほーさん】が始末を付けられなかった時は、仲間達がケリを付けるだろう。最初で最後のナイトメアランページだ。
「……久々の感覚だな」
 脚の調子が良いのか、【ほーさん】は召還されながら地面の感覚を確かめていた。やはり、この夢世界ではナイトメアの力の制限が緩んでいるらしい。
 【ほーさん】は初老のナイトメアを懐古するように直視した。その横顔に気付かれたのかそうではないのか、クリューナ夢衣の視線を感じる。
 クリューナ夢衣が実体化した【ほーさん】に言った。
「ほーさん……お願い」
「分かっている」
 素気無い返事をした【ほーさん】が身軽そうに草原を疾走していく。黒い霧の穴に肉迫しても、潜り抜けようと飛んだりする必要はなかった。一直線に突き進み、魔法の茨ごと粉砕する。
 初老のナイトメア正面に存在していた【暴蝕の悪霧】は霧散した。
 【ほーさん】は走ることを止めずに進んだ。初老のナイトメアと目を合わせ、久しい旧友の名を呼ぶ。
「ナイト!」
「ヌゥ!」
 初老のナイトメア――ナイトの体は思い通りに動かなかった。超マヒのせいである。この麻痺が運命の分かれ目だった。 
 防御に徹しようと、ナイトが魔力の膜を張る。だが魔力伝達が額付近まで及ぶのに時間が掛かりそうだった。
 ……ナイトメアとして、無駄だと分かっているはずだ。膜の薄い場所は、言わば弱点である。そんな所を突くことに長けた暗殺の業を、ナイトメアは使える。
 そして、【ほーさん】がそれを狙わないわけがない。
 ナイトは体勢を低くした。避けるのは無理、体のバランスを崩しても誰かの追撃。それなら堪え切るしかない。
 ナイトもまた【ほーさん】の真の名を口にしようとする。
「ホー――」
 しかし、名前を呼び終えることはできなかった。
 【ほーさん】とナイト、二体のナイトメアが額と額の頭突き合いを織り成す。
 ナイトは【ほーさん】と額を合わせたまま、黒い霧の空間内の端まで押し込まれた。それから一歩下がった【ほーさん】と共に、互いに顔を上げる。額から流血させたのは、ナイトのみだ。
 黒い霧が白く変色し、忽ち白雲のように真っ白となる。まるで悪夢という雨雲が晴れていったかのようだった。
 ナイトがその身を白い霧に包ませて空高く飛び上がる。そして白い霧が空中分解すると、ナイトの姿は消えていた。
「あ……」
 それは一瞬のことだった。
 逃げられてしまったと思うように、クリューナ夢衣が不安そうな顔になる。
 自分達が協力した上での敵討ちでさえ、満足にさせてやれなかった。仲間達の表情には、そんな悔しさが滲み出そうになっている。
 役目を果たした【ほーさん】は、クリューナ夢衣の夢の中に引き寄せられていく。戻りながら、今のパートナーに伝言した。
「あいつは、ここで話ができる時間を作ったに過ぎない。だが長くは持たないぞ――」
「……え?」
 何もかも解っているような確信めいた言葉だった。
 【ほーさん】は何か聞いたわけではない。だが過去、共にしていた旧友だからこそ通じるものがあったのだろう。
 他ならぬパートナーからの言葉ならば、クリューナ夢衣も疑う余地はない。呆然としながら、ナイトメアワープだったのかと疑い掛けていた仲間達に呟く。
「皆……ありがとう」
 クリューナ夢衣のその一言で、仲間達にも戦いの終わりが伝わった。


偽シナ【エンド・オブ・サートゥン・ナイトメア】リプレイ5
スポンサーサイト
偽シナ【エンド・オブ・サートゥン・ナイトメア】 | コメント:0 | トラックバック:0 |
<<偽シナ【エンド・オブ・サートゥン・ナイトメア】リプレイ5 | HOME | 花見イベシナの仮プレ>>

この記事のコメント

コメントの投稿















コメント非公開の場合はチェック

この記事のトラックバック

| HOME |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。